『仏陀再誕』を見に行くオフを企画して新宿のバルト 9 で見に行き、我々は素晴らしい体験を得た。
事前予約状況や見に行った人の感想などから、予約をしなくても充分に見られるだろうと思っていたが見通しが甘く、16:20 の上映はギリギリに映画館へ到着すると既に満席だった。仕方が無いのでバルト 9 の入ったビルの外に出て、次の 18:30 の上映を見るかどうかを全員に問うと、全員が見るという。その時点で 18:30 の上映は空席が充分にあり、企画者として安堵したのだが、そこに『仏陀再誕』の大きなプラカードを首から提げた人と何か冊子や葉書のようなものを持った人が通りかかる。俺はその方を見ながら小声で「信者の方だ」と言ったのだが、それに気付いた信者の方々がこちらに近付いてくる。「『仏陀再誕』という映画があるんですが、見られましたか?」
事前に幸福の科学の信者の方がチケットを配っているという話は聞いていた。「映画館の近くで『仏陀再誕』を見たいと呟いていればチケットを貰える」と俺に言う人もいた。果たしてそれは本当で、その信者の方々は「チケットを配っている」という。俺達がたった今『仏陀再誕』を見損ねたことを伝えると、その場にいた一四人全員にチケットとくれると言った。代表として何名かに支部のようなところへ来て欲しいと言うので、俺、四日市、テオリア、高野が付いて行った。
道すがら、俺は信者の方とあれこれ話をした。まず、仏陀は二五〇〇年前に「東の国で復活する」と宣言して没し、そして今、仏陀が再誕しているらしい。そして仏陀はキリストの父であり、キリスト教も仏陀の教えに影響を受けたものであるという。仏陀の再誕は仏弟子達のために慈悲の心で行うものであり、俺が何度も聴いていた『仏陀再誕』の主題歌である「悟りにチャレンジ!」の歌詞はその事実の一部を書いたものなのですね、というと信者の方は強く頷いた。唯物論が広まって最近の若い人は目に見えないものを信じない、と言うので、科学は本来、論理がありそれに基づいて現実を見るのではなく、現実がありそれを分析して理論を構築するものなので、実際にあることであれば、それを信じないのは科学としても間違いであると言うと、信者の方はまた強く頷いていた。
『仏陀再誕』は二度も三度も見ると味がある、というようなことも言っていた。支部にはいつでも遊びに来てね、友達を誘っても『仏陀再誕』を広めるために人数分のチケットなら何度でもあげるから、とのことだった。支部は日本各地にあり、ボランティアによる活動でチケットを配っているのだそうだ。
到着した支部は選挙期間中は幸福実現党の事務所のようなものとして使っていた場所らしい。そこで俺達は人数分のアンケート用紙のようなものを受け取った。チケットを受け取る全員に住所、氏名、電話番号、メールアドレスの記入をお願いしているのだった。皆が集まっている場所に戻り全員に個人情報を書かせると、人数分のチケットを受け取ることができた。当たり前だが皆が偽名や実在しない住所などを書いていた。俺だけが全てを正直に書いた。連絡が来たら面白いと思ったからだ。適当に話を合わせたり、ここまでは真面目にこのエントリを書いたりしたが面白全部でやっているに決まっている訳で、皆は信者の方々に隠れて「タダチケットマジかよ、すげーな幸福の科学」「いやー、タダで映画見られて非常にプレミアムな体験ですね」などと言って笑っていた。
映画の内容は悪の指導者「荒井東作」が自分に従う人間を増やそうとする一方、正義の指導者「空野太陽」が正しい教えを広めるというもので、悪霊だか何だかに取り憑かれた荒井が超能力のようなものを使って人心を掌握したり、謎の飛行物体を出現させて東京全土を攻撃し『インデペンデンス・デイ』のような状態にしたりするが、空野と主人公の「天河小夜子」が世界を正しく導いて荒井の企みを拒んでいく。
荒井は、日本全土を覆う巨大な津波が来る、私に従う者は救われる、と宣言する。しかし空野とそのメッセンジャーである天河小夜子は、津波は荒井が見せる幻覚であり、正しい心を持つことでそれを打ち破ることができると人々に伝える。人々はその力で正気を取り戻し、混乱した日本は安定を取り戻す。
『インデペンデンス・デイ』のようなシーンも明らかに天河が直撃を喰らっていたのに全くの無傷というシーンがあるのでこれも幻覚によるものだろう。天河も霊視ができるという幻覚症状の持ち主だが、最終的にはコントロールが可能になる。幻覚を克服したということだ。
ここで四日市はひらめいた。荒井の幻覚の力は統合失調症によるものであり、統合失調症は近しい人間に伝播する。テレビなどのメディアを通じて登場する荒井はそのあまりに強い統合失調症の症状のため、日本全土に統合失調症を伝播させて幻覚を見せていたのだ! オフの参加者は嘆息と共に納得した。閉鎖病棟に入院していた俺は病院仲間が次々と宗教にはまって人生が安定するのを見てきた。宗教は精神の安定に大きく寄与する。宗教家とそのメッセンジャーである空野と天河は宗教による精神修養により統合失調症を克服し、更に他者へ呼びかけることでその幻覚症状を治療していたのだ。空野は明らかに超常的な力を使って翼を出したり光の剣で攻撃をしたりと民衆を守っていたがあれはアニメ的な演出であり、実際には荒井と説伏合戦でもしていたのだろう。
これで全ては明らかになった。『仏陀再誕』は統合失調症とその宗教による治療の物語であり、この特殊な物語を広めるために幸福の科学の方々が必死になってチケットを配りまわっている。我々は笑いながら楽しむことができた。みんなも幸福の科学からチケットを貰って『仏陀再誕』を見に行こう。





